東京地方裁判所 昭和48年(ワ)5330号 判決 1973年10月26日
原告 全東栄信用組合
右訴訟代理人弁護士 砂子政雄
被告 河村淳子
被告 河村実子
被告 河村直子
右両名法定代理人親権者母 河村淳子
被告ら訴訟代理人弁護士 入江正男
同 山下俊六
主文
1.被告らは原告に対し、それぞれ金六一万三〇四七円及びこれに対する昭和四八年八月三一日から各支払ずみまで年二五パーセントの割合による金員を、被告らが亡河村達郎より相続した財産の存する限度において支払え。
2.原告のその余の請求を棄却する。
3.訴訟費用は被告らの負担とする。
4.この判決は、第1項にかぎり、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1.被告らは原告に対し、それぞれ金六一万三〇四七円及びこれに対する昭和四八年八月三一日から各支払ずみまで年二五パーセントの割合による金員を支払え。
2.主文第3項と同旨
3.仮執行の宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
1.原告の請求をいずれも棄却する。
2.訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、請求の原因
1.原告は昭和四一年六月三日訴外河村達郎との間に、手形割引、手形貸付、証書貸付の方法により、随時金融する旨の手形割引並びに継続的貸付契約を結んだ。同訴外人は、右契約において、契約後の債務につき期限後の損害金を日歩七銭(年二五パーセント強)とすることを約した。
2.原告は右河村達郎に対し、右契約に基づいて、
(1)昭和四七年二月一二日金四〇〇万円を、(イ)期限は昭和五〇年六月三〇日、(ロ)償還方法は昭和四七年三月三〇日から毎月三〇日限り金一〇万円宛、四〇回の割賦償還、(ハ)利息は年九・五パーセントとし、毎月三〇日限り翌月分前払い、(ニ)特約として、(い)本契約に違背したときは通知催告を要せず当然期限の利益を失う、(ろ)遅延損害金は年二五パーセントとする、との約定により、
(2)昭和四八年四月九日金三〇万円を、弁済期同年七月六日の約定により、
(3)同年四月三〇日金五〇万円を、弁済期同年七月三〇日の約定により、
(4)同年五月二日金五〇万円を、弁済期同年八月六日の約定により、
(5)同年五月二六日金五〇万円を、弁済期同年八月二六日の約定により、
それぞれ貸付けた。
3.河村達郎は、昭和四八年六月二日に死亡し、その妻である被告河村淳子、子である被告河村実子、同河村直子の三名が相続人となり、前記各貸付債務をそれぞれ三分の一の割合によって相続した。
4.前記(1)の貸付金(以下「(1)の貸付金」という。前記(2)ないし(5)の貸付金についても同様に略称する。)については、河村達郎において、昭和四八年五月三〇日まで一五カ月間、毎月一〇万円宛、合計一五〇万円を支払ったが、同人の死後、被告らは同年六月三〇日に支払うべき一〇万円の支払を遅滞したので、前記特約に基づき残金二五〇万円を即時支払うべきこととなった。
5.原告は昭和四八年八月三〇日付書面によって被告らに対し、(1)の貸付金残金二五〇万円と、河村達郎の相続財産に属する同人名義の預金合計二四六万〇八五七円を対当額につき相殺する旨の意思表示をし、右書面は同年九月三日被告らに到達した。
6.よって原告は被告らに対し、それぞれ(1)の貸付金の相殺後の残金三万九一四三円と(2)ないし(5)の貸付金元本計一八〇万円との合計一八三万九一四三円の各三分の一に相当する六一万三〇四七円及びこれに対する履行期後の昭和四八年八月三一日から各支払ずみまでいずれも約定の率又はその限度内である年二五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
二、請求の原因に対する認否
1.請求の原因第1、2項の事実は不知。
2.同第3項の事実のうち、被告らが本件貸付金債務を相続したとの点は争い、その余の事実は認める。
3.同第4項の事実は不知。
4.同第5項の意思表示のあった事実は認める。
三、抗弁
被告らは昭和四八年七月一一日東京家庭裁判所に対して限定承認の申述をし、同日これを受理された(同庁同年(家)第七七七五号)。したがって、無条件の弁済には応じられない。
なお、右受理の日に財産管理人に選任された被告淳子において、相続債権者に対し、同月一六日付官報をもって、公告の日から二カ月以内に請求の申出をするよう公告をするとともに、原告に対しては、同月一七日付書面(内容証明郵便)をもって相続債権の請求の申出を催告した。これに対し、原告から後記主張のとおり請求の申出があったことは認める。
四、抗弁に対する認否、主張
無条件の弁済に応じられないとの主張の点を除き、抗弁事実及び被告淳子が財産管理人に選任され、請求の申出の公告及び原告に対する催告をした事実は認める。原告は昭和四八年八月三一日付書面をもって、本件各貸付金債権につき請求の申出をし、右書面は同年九月一日被告淳子に到達した。
第四、証拠<省略>
理由
一、請求の原因第1、2項の各事実は、成立に争いのない甲第一、二号証、第四ないし第七号証によってこれを認めることができ、反証はない。
二、河村達郎が昭和四八年六月二日に死亡し、その妻である被告淳子、子である被告実子、同直子の三名がその相続人となったことは当事者間に争いがない。すると被告らは、各自三分の一の割合により、河村達郎の本件各貸金債務を相続したものというべく、被告らが後記のとおり限定承認をしたとの事実も、この結論を左右するものではない。
三、河村達郎が(1)の貸付金債務のうち一五〇万円を弁済したことは原告の自認するところであるが、被告らが昭和四八年六月三〇日に支払うべき割賦償還金一〇万円を弁済したことは被告らにおいてなんら主張立証しないところであり、かえって後記のとおり被告らが後日限定承認をした事実からすると、右一〇万円はこれを弁済しなかったものと推認され、被告らは前認定(請求原因第2項引用部分)の特約に基づき、同日の経過とともに残額につき分割弁済の期限の利益を失ったものというべきである。
四、原告が亡河村達郎の相続財産に属する同人名義の預金合計二四六万〇八五七円の債務を負担していたことは原告の自認するところであり、原告が被告らに対し原告主張のとおりの相殺の意思表示をしたことは当事者間に争いがないから、(1)の貸付金残債権二五〇万円は右相殺により右預金債権二四六万〇八五七円と対当額において消滅し、残金は三万九一四三円となったものといわねばならず、結局、被告らは原告に対し、それぞれ右(1)の貸付金残金と(2)ないし(5)の貸金元本との合計一八三万九一四三円の各三分の一に相当する六一万三〇四七円及びこれに対する履行期後の昭和四八年八月三一日から各支払ずみまでいずれも約定の率又はその限度内である年二五パーセントの割合による遅延損害金の支払義務を負担しているものというほかはない。
五、被告らがその主張のとおり限定承認の申述をして受理せられ、財産管理人に選任された被告淳子が請求の申出の公告及び催告の手続をしたこと、これに対し原告がその主張のとおり請求の申出をしたことは当事者間に争いがない。ところで、相続の限定承認は、相続債務に関する相続人の責任を相続財産に限定するものに過ぎず、相続債務そのものは相続人において全額を承継するのであるから、債権者は相続人が限定承認をした場合においても、全額の支払を求めることができるのであるけれども、その給付を命じる判決の執行力の及ぶ責任財産が相続財産に限定され、固有財産には及ばないことを考慮すると判決主文において相続財産の存する限度においてのみこれを支払うべき旨を留保すべきものと解するのが相当であるから、被告の抗弁は、この意味において理由がある。
六、よって、被告らに対し、前示支払義務につき無留保で履行を求める原告の請求は、右留保を付すべき限度においては失当として棄却を免れないが、その余の部分は正当としてこれを認容すべきものであり、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 平田浩)